おそろい。
☆ 神聖ローマに名前をつけようと考えたのですが、彼にふさわしいと思える名前がどうしても浮かびません。
この作品では、全員国名表記でいくことにします。
ちびたりあがオーストリアの家につれてこられて数年が過ぎた。
ハンガリーさんという、強い上に優しい味方もできた頃にはこの暮らしにも慣れ、以前よりは毎日がつらくなくなってきていた。
依然として、仕事には不器用で叱られっぱなし。ハンガリー以外の人には相変わらずほぼ無視されっぱなし。
しかし。慣れてしまえるのだ、こんな生活にも。 それに、たまに帰国した神聖ローマが彼に会いに来てくれる。ちょっと前までは怖い顔でちびたりあを追いかけ回したり、いきなりリンゴやオレンジを投げつけたりしてきたのだが。
最近は「まず礼儀正しく声をかけてくれる」ようになった。「どう声をかけたらいいのか判らなかったんだ」と謝られ、照れながら花など手渡してくれるようになって以来、ちびたりあはますます彼の事を好きになっていた。
ある年末。珍しく神ロがクリスマス時期に帰宅した。
「今年のクリスマスは君とすごせるの? うれしいなぁ」というのが、ちびたりあが神ロに発した最初の言葉だった。
その言葉がなかったとしても、花が咲くような笑顔で涙ぐまれただけで、神ロは胸いっぱいになっただろう。 いつもおどおどと大人の顔色をうかがっていたちびたりあが 「サンタさん、プレゼントありがとう! もう、他に何もいらないです」と天を仰いで祈るに至り、周りにいた大人たちは一様に居心地の悪い照れくささや罪悪感を感じる。 ちびたりあは彼らの領土。働いて働いて働きつくさせて当然の存在でなくてはいけないので、ちびたりあがほんの子供だという事はなるべく意識しないようにしていたのだ。 中でもオーストリアは、彼らが子供だという事を半ば本気で忘れていたらしい。「クリスマスだから仕方ありませんね」と、彼らを自ら買い物につれていくことにした。 「私ひとりでは手に負えないので、一緒に来なさい」と命じられたハンガリーがつき添いになる。ちび二名と方向音痴一名のお守りは大変だなぁ……と、オーストリア配下の人たちは同情しつつ見送った。 しかし。館のメイドたちはもっとハンガリーの事をよく知っていた。少年たちと両手をつなぎ、スキップしそうな勢いの彼女を、「頑張れ」というひそやかなエールで送り出した。
買い物と言っても、クリスマスの準備は使用人たちの手で着々と進められている。オーストリアが買うモノと言えばプレゼントくらいしかなかった。 「クリスマス用の衣装でも、選ばせましょうか」 そう呟いたオーストリアに、「ご案内します」と明るく告げたハンガリー。それでいいのかしら? と子供たちの表情をたしかめる。
お出かけの機会が滅多にないちびたりあは「お買いもの、いいね〜」と、ハンガリーのスカートごしに神ロに一所懸命話しかけていた。 間にハンガリーという壁ががあるからか、神ロもいつもよりリラックスしているようだ。ちらちらと視線をちびたりあに向けつつ、言葉少なに受け答えしている。 (この子達ったら、なんて可愛いっ!) 思わぬ幸せに盛り上がる彼女だったが、オーストリアが脇道にそれていくのを発見して我に返った。 悩んだのは一瞬。ハンガリーは、ちびたりあの手を素早く神ロにあずけると「ちびちゃんの面倒は、あなたが見て。頼むわ」と告げる。 驚く神ロに「ついて来て!」と叫んでから、ハンガリーは路地に消えそうになっていたオーストリアの背中を取り押さえることに成功する。この即断即決の見事さは、長年戦士として生きてきた彼女ならではのものだ。 「どうして貴方は、行っちゃいけない方向にばかり進むんですか!」と叱りながら、ハンガリーは自分の腕を彼に絡める。彼女を見つめて硬直するオーストリアに、「貴方が行方不明になったら、困るんです。お店につくまでの辛抱だと思って我慢してください!」と告げるハンガリーはどこか嬉しそうだった。 その様子をあっけにとられてみていた神ロの腕にも、小さな手が添えられた。 「?!」 隣を見ると、ちびたりあが彼にぴったりと身を寄せて微笑んでいる。 「ね、ハンガリーお姉さんたちと、おそろいだよ」 「……」 それは。 「男性が固まったところまでお揃いだったわね」と、後年ハンガリーが繰り返し思い出すささやかな一場面だった。
そんなわけで子供服専門店に来た彼らだった。 「好きなものを選びなさい」 いつもなら店員任せのところを、珍しくオーストリア本人がつき添ってクリスマス特設コーナーに訪れた。 そこにはサンタ服アレンジのドレスや、天使のような白い服。他にもちょっと変わった衣装がたくさん並んでいて、子供たちは目が回りそうだと思った。 しばらくして二人が選んだのは、トナカイの着ぐるみだった。 「そんなもので、いいのですか?」 言いながらオーストリアの視線が、赤いサンタワンピースの辺りを漂っている。 「い、いえやはり本人の欲しいものが一番だと思いますっ」 ちびたりあが少年だと正しく認識しているハンガリーは、とりあえずオーストリアの趣味(?)を軽くけん制した。 「本当に、これでいいのか?」 神ロが不安そうに念を押す。するとちびたりあが笑顔でこう答えた。 「サンタさんは、ひとりしかいないでしょ?」 「ん? まあ、そうだな」 「でも、トナカイさんはみんなでそりを引くの。僕、神聖ローマといっしょがいい。一緒にトナカイになって、一緒にそりを引きたいの」 だからおそろいなんだけど、だめかなぁ。と、ちびたりあは首をかしげて神ロの表情をみる。 「…………」 三人に凝視されたちびたりあは、恥ずかしそうにうつむいてしまった。 「よし!」 最初に声を出したのは、ハンガリーだった。 「私もトナカイになっちゃう! オーストリアさんはサンタさんですからね!」 ふたりを抱き寄せ、極上の笑顔をオーストラリアに向けるハンガリー。 「なぜ、そうなるんですか」 口元を引き締めて、厳しい表情を作るオーストリアだが。眼鏡の下の瞳が、面白そうに揺らいだのをハンガリーは見逃さなかった。 「貴方が大人の男性だからです」 「大人の男として、女性と子供にそりをひかせるわけには……」 「大丈夫です! 私の方が力持ちですから」 「それが悩みの種なんですが」 「え? 何かおっしゃいましたか?」 「別に。とにかく……」 いつの間にか子供たちから離れ、口論するふたりはどう見ても楽しそうで。止めようとする者は誰もいなかった。 「あ、そうだ神聖ローマ」 ちびたりあがそっと袖を引き、彼の耳にささやいた。
「Frohe Weihnacht!」 神ロが思わずちびたりあの顔を見つめる。 「ちょっと早いんだけど。でも、何回言ってもいいよね」 微笑む顔がごく至近距離にあり、神ロは一瞬だけ気が遠くなった。 「ふ、ふろーへ……ばいなはと」 こわばった声で口に出すと、ちびたりあが再び腕をからめてきた。 「来年も、こんな風だといいね」 「そうだな」 答えつつ、「この一瞬が永久に続けばいい」と真剣に思ってしまった神聖ローマだった。 彼が漠然と予想した通り。 これがふたりにとって唯一の、幸せなクリスマスの思い出となってしまう。
イタリアが記憶の底に埋めた、でもけして忘れられないクリスマスの一日だった。
終
*御本家様クリスマス企画から、ネタを頂戴しています。トナカイ着ぐるみのちびちゃんず。
神聖ローマとちびたりあ、エリザ姐さんが初書きです。なんだかめちゃくちゃ楽しかったよ!
あの着ぐるみを買いそうな人。この二人しか思いつきませんでした。
この時点で、ローデとエリザはまだカップルじゃないんですが……。
そう思っているのは本人たちだけという、お約束の状況のような気もします。
Frohe Weihnacht! は、メリークリスマスです。
それと、彼らの時代には既製服はほとんどありません。オーダーメイドが普通。
まして着ぐるみなんて存在しないはずですが。
ご本家様ネタですから、気にせずそのまま行こうと思います。
Write:2010/01/20(WED)
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