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普貧乏神と服の神




☆昔話の「貧乏神と福の神」パロディです


 昔々、ある地域に大きな国がありました。古の大帝国のような、立派で平和な世界を作ろうと。夢と理想を掲げていくつもの国が集まったのです。
 普貧乏神は、その神聖国に住む神様のひとりでした。神様と言っても、その力はそれぞれ違います。
 彼はとても強い力を持っていて、それ故に周囲からは敬遠されるという性質でした。
 致命的だったのは「当初彼が自分の性質を理解してなかった」ということでしょう。そういう残念な性を『普憫』と呼ぶのだと、彼は知りませんでした。
 自分の働きが国を助けると信じて力を振い続けた普貧乏神は味方をなくし、気がつくと守るべき神聖国まで見失っていたのです。
 我に返った普貧乏神は呆然とします。良かれと思ってやったことが、逆に神聖国へ止めを刺す結果になったのですから。
 残ったのは、元々足をつけていた小さな国だけ。
 彼の居る場所は変りませんが、自分が居座ると残ったこの小さな場所まで普憫になるのでは……彼は恐れました。
 しかし、残された小さな国への愛着未練は断ちがたいものがありました。彼は力をセーブすることを覚え、慎重に生まれ変わった国を見守り続けました。
 新しい国はドイツと呼ばれます。普貧乏神の心配をものともせず、実にたくましくムキムキと成長し、力強く大きく育ちました。
 ただ、あまりに急激な成長は周囲から歓迎されず、恐れられこそすれやはり友人はできません。
(これってやっぱ、俺がいるせいなのかな)
 そんな風に思った普貧乏神は、ある日柄にもなく落ち込んで、うっかり現世に姿を現してしまいました。
 誰にも見つかるまいとタカをくくっていた彼は、夜更けの庭園で金髪の青年にばったり遭遇してしまいました。こういう間の悪さが、余すことなく普憫と呼ばれる所以です。
「誰だ!」と誰何され、彼は仕方なく「普貧乏神だ」と名乗りました。
 不吉だと嫌われるのを覚悟しつつ、「ずっとずっとこの国を見守っていたのは、俺だ」と悪びれずに伝えます。
 すると青年は笑顔になり、おずおずと彼に近寄ってきました。
「ずっと?」
「ああ。お前の生まれる前からな」
 彼が答えると、青年は彼の身体に腕を回します。まさか抱擁してもらえるとは思っていなかった普貧乏神は、驚きました。
「見守ってくれてありがとう。俺は、ずっとひとりだと思っていた」
 青年の熱い体温を感じで、彼は言葉に詰まりました。青年がひとりぼっちのままなのは、彼のせいかもしれないのですから。
 少しの迷いを飲み下し、彼は正直に自分の性質について語ります。つまり……彼が居ると、この国に普憫をもたらすと。
「だからそろそろ消えた方がいいんだけどよ。俺も他に行くところがねぇんだ」
 すると驚いた事に、青年が真正面から彼を見つめてこう言いました。
「今まで居たのなら、これからも居ればいいじゃないか」
「……お前、俺の話聞いてたか?」
 てっきり「出ていってくれ」と言われると思っていた普貧乏神は、衝撃のあまり目まいさえ感じました。
「聞いたさ! でも、そんなことは俺が頑張ればすむことだろう。貴方の居場所を確保するくらい大丈夫だ、と思う」
 だからどこにもいかないで欲しい。と青年は真顔で詰め寄ります。少年っぽさを残す青年の健気さに涙が出そうです。普貧乏神の脳内で「たった今消滅しても悔いなし」という気持ちと「お言葉に甘えて永久居住」という気持ちが激しく攻め合いました。
 その時。
「いやぁ、いい子だねドイツ。待たせちゃってごめんね〜。そんな君に、救いの神登場だよ」
 なぜか「シャララララ〜」な感じのBGMをせおって、ひとりの男が突然割り込んできました。
「はじめまして。俺は福の神。俺の愛をすべて君に捧げるよ」
「! フランシス、貴様どうしてここに!」
 金髪巻き毛の美青年は、片手に持ったバラで普貧乏神の頭を軽くたたきます。
「だから、持ち場交代だってばギルベルト。彼はよく頑張ったからね。
 お前みたいな不憫はリストラして、来年からは俺が見守ることになったってわけ」
 奇天烈な事態についていけない青年に、フランシスは極上の笑顔を振りまきます。
「俺の力でワインも小麦も美味くなるし、音楽美術学問なんでも与えられるよ……そこの不憫と違ってね」
 ふふん、と鼻で笑われても、ギルは反論できません。彼の力は「国をひたすら強く(ついでに普憫に)する」ことだけなのですから。
「何と言っても実績が違うってところ、見せてあげるよ。まずは君に最新ファッションを教えてあげなきゃね」
 ひょいと手を振り、フランシスは空中から洗練された夜会服をとりだしました。
「ほら、これなんてどう? 君をどこの国にも負けない最高の紳士にしてあげるよ」
 あっけにとられていたドイツ青年は、フランに肩を抱かれて我に返りました。そして、差し出された服を受け取ります。
「……賢い、選択だ」
 ギルベルトはそう呟いて、青年から文字通り身を引きました。
(そう、それでいいんだ。おまえがしあわせになるなら)
 歯を食いしばり、声に動揺を出さなかった自分を密かにほめながら。
 ドイツ青年はフランシスに視線を向け、薄い笑みを浮かべます。
「さすがだな。こんな服見た事がないぞ」
「そーでしょー。他にもあるんだよ、たとえばね……」
 ぺらぺら喋るフランを制して、ドイツは無造作に夜会服をフランに投げ返しました。
「服の神と名乗るだけのことはある。だが、俺には必要無い」
「え? ちょ、違うって服じゃなくて福! 福の神! 全人類が待っている、究極の人気者よ俺?!」
 慌てるフランシスに構わず、ドイツ青年はおごそかな口調で「必要無い」と再度告げました。
「ここにはもう、彼が居るんだ。だから……いい」
 そう言って普貧乏神の手をとる青年を、フランは信じられないモノを見る目つきで睨みます。
「俺、福の神になって長いけどこんな扱い受けるの初めてだよ! いーよ、イギリスに行っちゃうからね! 後で『しまった』とか思っても遅いよ?!」
 脅されても、ドイツ青年は全く動じません。むしろ丁寧に「来てくれてありがとう。どうかイギリスという国を幸せにしてやってくれ」と挨拶する始末です。
 振り返ったフランシスは、魂が半ば抜けているギルベルトを引きずりよせ、そっと囁きました。
「こんな珍しい事があるなんて、ね。良かったじゃない。信じられないけど、お似合いだよお前ら」
 くすくす笑って、ゴージャス金髪ひげ男は姿を消しました。

 そんなわけで。
 ドイツはずっと普貧乏神の加護を受け続け、力強い国になりました。
 あれからずいぶん時間が過ぎ、ドイツにも友人や仲間ができる時代になりました……が。
 なんとなく貧乏くじを引きがちというか、余計な苦労を背負い込みがちというか。
 そういう気質が改まることは、ついになかったというお話です。

 めでたしめでたし?


 終





*実在する国と歴史には、一切関係ありません。ないんだからね!

 普憫な貧乏神と、肝の据わった家主の話でした。
 「いいのか本当に」とツッコミたいところですが、ルートは普憫を選ぶと確信を持っています。
 元の話をご存じない方は、ぜひぐぐってみてください。
 私が「元ネタの粗筋をほとんどいじってない」事を確認できます。
 (オチにはいくつかバージョンがありますが、私はこれが好き)

 実はこれ、ぴくしぶで「東西兄弟で童話」という企画を見つけて書いたものです。
 このお題で一番に思いついたのが「泣いた赤鬼」でした。
 もちろん赤鬼=ルート、青鬼=ギルです。
 すいません、素で泣けました。駄目です書きたくありません。
 次に思いついたのが「鉢担ぎ姫」。
 姫がルートで、過保護だけど方向性がちょっと変な実母がギル。
 最後に姫と結ばれる貴族がフェリで……あれ?
 これは楽しそうなんだけど、趣旨から外れたのでボツ。

 あれこれ考えてたどり着いたのがこの話でした。
 いつもオチ要因にして本当にごめんね、フラン兄ちゃん。
 でも他の人じゃ駄目だったのよ。福の神って誉めてるよね? だから許してください。





Write:2010/11/25

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