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小ネタ
夏が来れば思い出す
「夏が来~れば思い出す~ 遥かな日本~遠い空~」
「なんだ、それは」
聞きなれない曲を口ずさむフェリに突っ込むルートは、すでに半日パソコンと向き合っている。
「前に、菊に教えてもらった日本の歌。いつも伊語に訳してくれるんだけど、今度は日本語で覚えようかなと思ってさ」
ふたりはお互いの国の民謡が気に入ったらしく、よく交互に教えあい、一緒に歌ったりもしている。
「日本の夏か。いいな」
モニターをにらみ続けて疲労した瞼を冷やしつつ、ルートが呟いた。
「いいよね~。ああ、あの白くて冷たいパスタが食べたいな。味も良いし、色もきれいで大好きなんだぁ!」
ソファに埋もれたフェリが、足をばたつかせながら「いいないいな」と連呼している。
「日本のビールは炭酸がきついんだが、あの亜熱帯気候の中で呑むと……」
「すっごく! 美味しいよね」
うむ。と呟いたルートは目を閉じて、色々思い出している。
「あ! 『テリヤキ味』のチキン! アレもおいしい。日本酒に合うんだ」
「塩焼きもいいぞ。日本は塩も旨い。もちろんビールにも合う」
実は塩にもうるさいルートが、うんうんと頷いている。
「それとほら、スイカとか桃とか! トマトまでフルーツみたいに甘くてさ。もう最高だよ」
「なんていう名前だったか、あの緑色のソイビーンズ。アレも癖になる味だしな」
ふたりして「くぅっ」と喉がなる。食いたい。今すぐ食いたい。
「……あ。菊まだ起きてた? よかった。 うん、俺。元気だよありがとう。菊は? 相変わらず忙しい?」
ふと見ると、フェリがルートの電話を使っている。
「それでね。今年の夏も、俺たち日本で過ごしたいんだけど。菊の都合はどうかなぁ」
「こら、人んちの電話で何を……」
「そう? よかったぁ」
勝手に国際電話をかけていたフェリが、振り返って笑顔で告げた。
「ルッツ~。菊が『いつ来てくれてもいいです』だって。よかったねぇ」
「いやだから、俺のスケジュールをお前が決めるなと!」
「あのね、ルッツは行かないって……」
フェリに無造作に伝言されそうになったルートは、即座に受話器を奪った。遠くに居る相手に、叫ぶ。
「世話になる! よろしく!」
彼の隣と受話器の向こうで、同時に笑い声が爆発した。
翌日菊から、「日本で何か食べたいものがありますか」というメールが届く。
それに対する連名の返信は、いまだかつてないほど長くて。
期待されていると思うと嬉しくて、張りきってしまう菊だった。
終
PS.
「遥かな尾瀬~ 遠い空~」
「その歌、覚えてくださったんですね」
「うん。歌詞の意味はあまり判らないんだけど」
「後で解説付きの訳文を贈りましょうか」
「ありがと。でね。『尾瀬』って地名でいいのかな?」
「そうですよ」
「俺のイメージだと、菊の家なんだぁ。
この歌、俺が日本を思い出すときの気持ちに、すごく近いんだもの」
「…………」
「あれ? 菊、顔が赤いよ?」
*拍手お礼文第四弾でした。
菊は君たちのお母さんか(笑) という感じになってしまいました。
ちょっと趣向を変えて、『二人が一人に甘える話』です。
三人の取り合わせで、一番難易度が高いのが「ルートに甘える菊」です。彼は本当~に、甘えてくれない。
でも頑張ります。っていうか頑張ってもらいます。
Write:2009/10/27 (Tue)
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