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一泊二日男三人


 菊の家に客が泊まる事は珍しくない。

 幸い部屋数は多いし、寝具なども十分に用意してある。アルフレッドなどちゃっかりお泊りセットを勝手に置いていく位、菊の家を定宿化している。
 客をもてなすのは楽しいし、来てくれると嬉しいといつも思う。朝まで客人と、居間で喋り続けたり飲み倒したことも多々ある。
 それでも客は客室に泊まるものだと思っていた。だから。
「え〜。布団ってコレ、運べるんでしょ? じゃ、菊も一緒に寝ようよ」
 フェリがそう言い出したときには、さすがに驚いた。
「それは別にかまいませんが……。お邪魔してよろしいのですか?」
「菊。それは誤解だと何度言ったら理解するんだ」
 唸るような声で抗議するルート。しかし、実際布団を並べて寝ているのだから、説得力がまるでない。
「では、遠慮なく」
 誰かと一緒に眠るのは、どれくらいぶりでしょうね。菊がそう言うと、フェリが「俺でよければいつでも付き合うよ」と明るく答える。
 コレがフランシスだったら、全力で逃げる算段を講じる必要があるのだが。彼の場合はどうなのかが未だに判らない。
(たとえ「その傾向」があったとしても、彼はルッツしか目に入ってないみたいですけどね)。と、ルートが聞いたら激憤しそうな結論をだし、菊は自室の布団を運びにかかった。

 客室は八畳間。家具らしいものは一切置いてない上に、りっぱな二間床の間と広い縁側があるので、男三人が床を並べても狭い感じはしない。
 布団をぴったりくっつけて並べようとするフェリと、それを阻止しようとしているルート。菊の布団が真ん中に入るのを見て、彼はぽつんと呟いた。
「川の字ですね」
 なに、それ? と聞くフェリたちに、三人が並んで眠るさまが、漢字の川の字に似ていることを説明する。
「うむ。お前のところは、表現が実に優雅だな」
 そういうルートの国民性は、暗喩が比較的苦手だ。フェリの国は逆になにかと派手に修飾したがる。二人にほめられ、菊は大いに気を良くした。
「ああ、ちなみにこれ本来は、親子の情景を表す言葉です」
 夫婦が子供を挟んで寝る様子を表すのだというと、二人の態度が微妙に変化した。
「それなら真ん中はフェリだろう。この中で一番お子様なのはお前なんだから」
「え〜。一番ちっちゃい菊が当然真ん中でしょ? このままでいいじゃない」
 つられて菊も、思わず声を上げる。
「なにをおっしゃいますか。私、最年長ですよ。一番若いルッツが真ん中で然るべきでしょう」
 どうでもいい事のはずなのに、誰も退かず揉めること数十分。
 三人とも、(ここで子供ポジションに納まったら、今後の力関係に影響する)とでも思っているような白熱した言い争いだった。

 結果として。
 誰も譲らなかったので布団はなんと、「頭を真ん中に放射線状に並ぶ」という、日本の常識からは考えられない配置になった。
 しかし、灯を落として眠気が差すまでダラダラ喋るには、悪くない位置関係だった。ベッド生活の彼らにも新鮮だったらしく、「キャンプみたいだね」とフェリが何度も呟いたほどだった。
 
 これ以降、彼らが菊の家に泊まるときはつねにこの状態で寝ることになる。他人が知ったら「君たち三人とも、本当に仲が良いよね」と皮肉交じりの表情で言われること間違いナシなのだが。
 実際にアーサーに言われるまで、気付きもしなかった菊だった。

 当事者になってしまうと、そんなものなのかもしれない。

 終



 拍手お礼文第一弾でした。
 お泊りの情景を想像するのは、やはり日本家屋が一番楽です。
 なので、どうしても皆菊のところに集まってしまうことになります。



Write:2009/08/07 (Fri)

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