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ルートと七人のこびと




「ねえ、ルッツ起きて」
 夜中に声をかけられ、ルートは目を覚ました。見ると、顔の横に見慣れた友人の顔がある。
「今さら来るなとは言わないが、夜中に起こすな。迷惑だ」
 そう言い捨てて再び枕に頭を沈めようとすると、身体を揺さぶられた。
「俺も、起こしたくないんだけど。でも、ちょっとこれを見てほしいんだ」
「ぴきゃ」
「……何だ、今の音は」
 キューピー人形が鳴ったような音だと思いつつ、枕元を探ってみる。すると、何かが手に触れた。
「あ! それだよ!」
 指で探ると、服を着た小さな人形のようだ。ルートの手の中でもぞもぞ動いている。
「よくできたおもちゃだな。人の家に、変なものを持ちこむな」
「え〜っと。それ、俺んじゃないよ。それに、おもちゃでもないと思うんだ」
 フェリが呟くのと同じくして、ルートの手から逃げようとしていた人形(?)が、彼の指にかみついた。
「!」
 痛くはなかったが、驚いてつい振り払ってしまう。ベッド上にぽとりと落ちたそれは、ちょこんと座りこんでルートをにらんでいた。
「ぴぃ!」
 手を振り上げて何か言っている。どうやら、怒っているらしい。
「というか、よくできてるな。生きてるみたいだぞこの人形」
 ルートがあきれたように言うと、また「ぷぅ!」と鳴く。腰に手を当ててぴぃぷぅ言ってる姿を見て、フェリが噴き出した。
「うわぁ。この子、お前そっくり」
「なんだと?!」
 一見キューピー人形のような頭身だが、前髪を下ろした淡い金髪と蒼目が見て取れた。
「この子たちが何なのかは、判らないけど。寝ているお前の頭元に、いつの間にか居たんだよ」
「ぴきゅ!」
 キューピーもどきは、「その通り」と言わんばかりに頷いている。
「ちょっと待て。この子、たち?」
 嫌な予感がして辺りを見回す。気のせいであってほしいという願いもむなしく、ひょいひょいと顔を出した人形の集団と、目があってしまった。
「さっき数えてみたんだけど。七人いたかな。お前んちのブラウニーだと思っていたんだけど、違うの?」
「そんなはず、ないだろう。お前だって、今までこんなものを見たことないはずだ」
 ブラウニーというのは、こっそり家事や仕事を手伝ってくれる妖精のことだ。ごく実用的な性格のルートは、「あり得ない」と断じる。
「どちらかというと、こういう非現実的なものはお前の担当だろう。でなきゃ、夢だ」
「何だか、酷いコト言われた気がするんだけど」
 ぷく〜っと膨れるフェリ。夢で済まされてはたまらないと思ったのか、「この子たちは絶対お前の関係者だよ」と断言した。
「いい? ちょっと見てて」
 そわそわと二人を見ている妖精(?)に、「一同、整列!」と号令すると、ちっちゃなルートたちは背筋を伸ばして横一列に並んだ。彼らがそろいの服を着ていることに、ルートは初めて気がつく。
 ちびたちは次の号令を待つように、じっとフェリを見上げている。困ったことにルートまでが同じような表情で彼を見ていたので、フェリは笑いをこらえるのに苦労した。
「ね?」
「少なくとも、イタリア人ではなさそうだな」
「そーゆーこと言う?! とにかく、俺のじゃないってことでいいよね?
 じゃあちびルッツは、お前の分身で間違いないよ!」
 ちびルッツ(確定)は、一斉に拳を振り上げて「ぴゃ〜」と叫んだ。「その通り」と言いたいのか? と思ったルートがあることに気付いた。
「こいつら、話が通じるんじゃないか! おい、お前たちどこから来たんだ」
 ルートが問うと、ちびルッツは一斉に彼を指さした。
「ほら。やっぱりルッツから生まれたんじゃないか。潔く認知しようよ」
「誤解を招く表現はやめろっ!」
 混乱の極みに達したルートを放置して、フェリはベッドに腹ばいになってちびたちをじっくり観察している。
「そっかぁ。国って、こんな風に誕生するんだね〜」
「そんなわけ、ないだろう?!」
 ちびルッツ達も、ルートに合わせるように「うんうん」と頷いている。
「違うの? 残念だな。……あ、それなら俺が連れて帰っていい? 大事に育てるからさぁ」
 嬉しそうにねだるフェリは、鼻息が荒い。
「こいつらの正体も判らないのに、軽はずみなことを言うな!」
 ちびルッツをかき集めそうだったフェリを止めて、ルートは「お前たちは、何者なんだ」と聞く。思えば、これをまず確かめるべきだった。
「ぴぃわ」「ぺきゅ?」「ぴゃぴぃ」「ぷぷ!」「ぴぴっ」「ぺう!」「ぽ!!」
「一人前に、協議しているぞこいつら」
「可愛いな〜。やっぱ、お前にそっくりだよこの子たち!」
 うっとりとちびっこを眺める目つきは、フランやトーニョのそれに似ているかもしれない。
 やがて相談がまとまったのか、ちびルッツが再び整列した。そして一斉に背を向ける。
「あ! 背中にゼッケンがついている!」
「……なぜ、ハートマークなんだ」
 見ればわかるということなんだろうと、二人は顔を寄せてハートゼッケンの文字を読んでみた。
 そこにならんていた文字は……。

 おどろき
 はじらい
 ときめき
 とまどい
 まごつき
 うれしい
 どきどき

「えっと、なんだろう? 白雪姫の小人たちみたいなものかなぁ?」
「アレは単にあだ名じゃなかったか? ……ええい、何でこんなモノがうろうろしているんだ」
 とにかく、思ったよりメンタルな存在らしい。二人はそう思う。
「もしかして、寝ているお前の頭の中からこぼれたとか? じゃ、残念だけど戻ってもらった方がいいね」
 フェリに言われ、ちびルッツたちはまた集まって相談を始めた。
「良いぞ別に戻らなくても」
「何言ってるんだよ! そんなの、だめに決まってるよ!」
「その駄目だしに根拠はあるのか? こんな感情、なければ常に冷静でいられる、結構なことだ」
 いらない子と言われて、ちびたちは肩を落としてうつむいてしまった。
「酷いっ! この子たちが悪いみたいじゃないか。おかしいよそんなの。
 それに、いつも冷静なルッツなんてどこが面白いんだよ!」
 ふざけるな。という目でフェリをにらむルート。だがフェリは珍しく真剣な顔で、ちびルッツ達に話しかけている。
「君たち、ルッツのところに戻ってもらえるかな。奴には君たちが必要なんだ」
 そう言われて、ちびルッツ達は喜んだ。ぱやぱや歓声をあげている。フェリは指先でそっと一人一人の頭を撫で、「これからも、ルッツをよろしく」と語りかけている。
「どうしてそうなるんだ。本体は、俺だろう?」
「だからだよ。この子たちがいなきゃ、お前なんて鉄腕ゴーレムだよ!」
「お前が俺をどう思っているのか、よく判ったぞ」
 不機嫌そうなルートに構わず、フェリはちびルッツを集めて慰めている。
「気にしなくていいからね。こいつ、照れてるだけだから」
 ね。とちびルッツ語りかけると、彼らはフェリのそばに集まってきた。フェリの頬に交互にキスすると、シャボン玉がはじけるように一斉に姿を消してしまった。
「戻った……かな?」
「さあな」
 そっけなく答えたルートの顔に、突然フェリの手が伸びてきた。ひき寄せられたルートの顔に、触れんばかりにフェリの顔が迫って……。
「何をする!」
 一喝してフェリの顎を押し上げるルート。首を変な方向に曲げられたまま、フェリはくすくす笑った。
「あの子たち、戻ったんだ。よかった〜。ルートも普通に真っ赤になってるし。間違いないね」
「もっとましな確認方法はなかったのか!」
 赤くなった顔をごしごしこすって、ルートは「だからこんなもの、いらないと言ったんだ」と呟いている。
「え〜? まだそんなこと言うの? じゃ、菊の意見も聞いてみる!」
「やめろ馬鹿野郎! 今何時だと思ってるんだ」
 携帯に手を伸ばしたフェリは、コールしながら平然と答える。
「うん、だから菊んちは朝だよ」
 そういう問題じゃない。じゃ、どういうこと? と深夜に喧嘩を始める二人。

 ちびルッツ達の出番には程遠く、彼らはまたしばらくルートの中で眠るのかもしれない。

 終






* 拍手御礼第13弾でした。

 タイトルから、白雪姫パロを期待した方。ひっかけでしたごめんなさい。
 ヴァレンテーィーノネタでルートの心からあふれていた、ハート擬人化(?)です。
 前髪下ろしは、私の趣味です。三頭身くらいで想像したもらえると嬉しいかな。
 実際に、ハートに描かれていた単語を拾ってみました。
 どうして突然出てきたのかは、謎なので追求しないでもらえると助かります。

 
Write:2010/06/17

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