Vacation!
セボちゃんことセボルガ青年は、その日も自宅でだらだらしていた。
(あ〜、夏だ。夏はイイよネ。水着の観光客がたくさん来てくれてシアワセ〜) できれば女の子ばかりだとなお嬉しい。などとぼんやり考えていると、ドアをノックする気配がする。 (呼び鈴鳴らしてくれたらいいのにネ。手がふさがってるのかな?)
彼が玄関に向かうのと、遠慮がちなノックがガンガンというヤバい音に切り替わったのが同時だった。
(うわ、何アレ。蹴ってるヨ! かかとのある靴で蹴ってる!
僕最近、女の子に恨まれるようなことしたかなぁ) はいはいはい〜。と連呼しながら扉を引くと、頑固そうな眉の少女が片足を振り上げて固まっていた。 「あれ? ワイちゃんだヨ。何してるの僕んちで」 「皆で遊びに来た」 少女が「当然でしょ」と言わんばかりの口調で答えた。(……皆?)といぶかしんだ青年が顔を出すと、扉の陰にいつもの水兵服のシーランドと、見知らぬ異装の少年が手をつないで立っている。 「いきなりだねェ」 「連絡しようかな、と思ったよ一応。でも別にいいかな、って。『インパクトが大事だ』って君が言ったんだし」 けろりと言い放った少女は、セボの横をすり抜けて勝手に室内に向かう。 「客に対する礼儀がなってないよ君! 呼び鈴押して欲しかったら位置を考えなよ!」 「手が届かなかったんだネ」
子供の届く位置にすると、ピンポンダッシュの餌食になるんだよネ〜。と呟くセボの目の前に、シーランドが立った。 敬礼が意外と様になっている(でもちょっと背伸びぎみな)少年は、笑顔で「遊びに来たですよ!」と断言した。 「これから小国家同士、仲良くなるです! 今日は挨拶みたいなものだから、気は使うなですよ!」 シーランドも少年の手を引いて、扉をくぐる。通りざまに少年に会釈され、セボは「この子は、誰?」ととりあえず聞いてみる。 「友達のキー君です! 名前がすごく長いから、ぼくはそう呼んでるです」 エキゾチックな衣装。浅黒い肌に、黒眼黒髪。で、名前がキー君。 (……あー。あの子かナ?) 追及すると非常にめんどうな事になりそうだと思ったセボは、「シー君と、キー君だね。よろしく」とだけ答えた。
居間にもどると、子供たちはすでに珍しそうに部屋を見回している。シー君がボトルシップ、キー君が壺を撫でまわしているのをはらはら見守っていたセボは、ワイちゃんが窓の外を眺めている事に気づいた。 「人、多いね。観光客?」
「あ〜。Vacationのシーズンだから。君たちも海に行ってみる?」 そう声をかけると、子供たちが一斉に振り向いて答えた。 「海なんて、飽きるほど見てる」 「それもそうだネ」 たは〜。と笑ったセボに、ワイちゃんが「もっと頭使いなよ」と容赦ない言葉を投げつける。 「子供だから、とりあえず海? なーんてダサい発想だと、そのうち観光客に飽きられるよ!」 手ごわいネ〜。と、セボは頭をかいて考え込んでしまう。ここで押されっぱなしなのは、年長者としてなさけない。 「そうだ。ねえ皆、僕と公園に行こうヨ。面白いものがあるんだ」
公園と聞いてちょっと眉をひそめたワイちゃんだったが、「面白いもの」という言葉には興味を示した。 道々、シー君はあれこれキー君に話しかけている。返事の声が全く聞こえないが、キー君は首を振ったり視線を動かすことで、それなりに自分の気持ちを伝えているらしい。 (ふ〜ん。結構仲良しなんだ) ひとりで先頭をどんどん進むワイちゃんは、少年たちの様子に関心がないように見えるが……。 「まあ、いいや。ほら君たち。あれが名物のアイスクリームショップだヨ」 指さす先には、ピンクのボディにスミレ色の飾りがついた車が止まっている。その周囲には順番待ちの客の群れ。 「シー君、アイス大好きですよ!」 ぴょんぴょん飛び上がるシー君の頭をそっと押さえ、「そりゃよかった。自慢のジェラードが30種類あるから、好きなの選んでいいヨ」とセボが答えた。 「あたし、トッピングにはうるさいよ?」 胸を張って宣言するワイちゃんを見おろし、セボはまたゆる〜く笑う。 「ここの店はトッピング扱ってないんだ。でも、絶対満足すると思うヨ」 ちょうど店内では、口髭の親父がサーバーですくったアイスをぽんと投げ上げ、カップで受け止めるという技を披露中だった。 「「「おぉ〜〜」」」 身を乗り出す子供たちの目前で、アイスはダブルトリプルと見事に積み重なる。 「すごいです! ぼくもやりたいです!」 「それは大人になってからネ。今は、食べたいアイスを決めてほしいナ」 セボに連れられて列に並んだワイちゃんとシー君は、車体に貼られたメニュー表を見ながら大騒ぎでアイスを選んでいる。いったい何個食べるつもりなのかと心配になるほどの熱心さだ。 ふと、彼の隣でおとなしく佇んでいるキー君を見る。 「え〜っと。君も選んでいいんだヨ?」そう囁くと、少年はメニューの周囲を彩るイラストをそっと指差した。 黄色くてつややかな、卵型の果実。それはどう見てもレモンにしか見えなくて。 「レモンでいいの?」 問うと、小さく頷く。「この店のシャーベット、果汁たっぷりがウリだから……酸っぱいよ?」と言っても、うん。と頷くだけ。 「じゃ、レモンシャーベットとフローズンヨーグルトのダブルでどう?」 セボが気をまわしたのが判ったのか、キー君は初めて少しだけ笑顔を見せた。 「お腹が冷たいです」 「ん。なんだか重い感じ?」 クワトロ(=4)の大盛りアイスを平らげたふたりは、共にお腹を押さえてうなっている。 「あ〜。やっぱりネ。大丈夫かな、って思ってたんだ」 セボが呟くと、ワイちゃんが視線を挙げて彼を睨みつけた。 「判ってたなら止めろよ大人!」 「ん〜。君は子供扱いしたら怒りそうだったし。それに僕、まだ大人じゃないヨ」 へら〜と笑うセボに言っても無駄と思ったのか、ワイちゃんは口をつぐんでしまう。そこにキー君がティーセットを携えて戻って来た。 「……チャイ」 慣れた手つきで一同にカップを配る。甘い香りの立ち上るお茶は、セボの記憶にないものだった。 「これは……君が持ってきたお茶かな?」 キー君が頷く。お腹を冷やした友達のために、自己判断で用意したらしい。 (おや〜。僕よりずっと気が利くじゃないか) 「君、いい子だなァ」とセボが呟くと、シー君が「知らなかったですか?!」とフォロー。ふたりに誉められたキー君は頬を染めて「……おかわり」とだけ言い残して部屋を出ていってしまった。 続いてワイちゃんも「あたしも手伝ってくる」と席を立つ。居間にはふたりだけが残った。 「君たち、仲良しなんだネ」 セボが話しかけると、シー君は「そーですか?」と小声で答える。もっと元気に「あたりまえです」的な返事が返ると思っていたセボは、「おや?」と首をひねった。 「仲良しと思ってるの、ぼくだけかもしれないです。だって……キー君しゃべってくれないです」 どこか痛そうな顔をしてるのは、アイスのせいばかりではなさそうだ。 「元々あまり喋らない子なんだと、思うヨ」
「それに……ワイちゃんは、しゃべらせてくれないです」 一方的に会話をおっ被せられるシー君が容易に想像できて、セボはつい吹き出してしまった。 「女の子だしネ。君がキー君に話しかけて、ワイちゃんの話を聞いてるからちょうどバランス取れてるんじゃないかナ」
シー君はうつむいて、結構真剣にセボの話を聞いている。やっと年上らしい事が言えたと、セボはひそかに満足した。 「まあ、ネ。女の子の口は喋るためだけについてるんじゃないから。ふさぐ方法は他に……」 っと。危ない危ない。子供に変なこと教えたら、僕が保護者さんに叱られるヨ。寸前で口をつぐんだセボを見て、シー君がなぜかにやりと笑った。 「ぼく、わかったですよ。セボちゃん、ワルイコト考えるですね!」 「え”?! 判ったの?」 あわてるセボを余裕の表情で見上げるシー君。(あああ。そういえばこの子の保護者は『エロ大国』の異名を持つあの人だった!)と気がついたが手遅れか? 「セボちゃん作戦、やりますです! つまり、食べ物で口をふさいでしまえってコトですね!」 どーん。と背景に波が立ちそうな勢いで断言するシー君。なんて健全な理解力。 「ああ、うん。そういうこと。君は賢いなァ」 「もっと褒めてもいいですよ」 にやりと笑う表情は、そういえば英国紳士にどことなく似ている。この子の将来をちょっと心配してしまうセボだった。 「キッチンにパウンドケーキがあるから、ワイちゃんたちと食べていいヨ」 「セボちゃん、大人なのに話が判るです!」 その言葉に、セボはへらっと笑って答える。 「いや、僕まだ大人じゃないから」 するとシー君は、立ち上がってセボの腕を引いた。 「それなら、ぼくたちといっしょにお菓子食べるですよ!」 ぐいぐい引っ張られながら、(僕、子供でもないんだけどネ)と呟いてみるセボ。 まあ、たまにかこういうのもいいか。と思い返したセボは、このVacationがどれほど長く続くか想像もしていなかった。
終
*煮詰まってます。もしかしたらこれをスランプというのかも? とにかく、いつもの話ではなく違う事に挑戦してみました。 公式キャラで、しかも今まであつかってないキャラを書いてみる。 そう考えた時に浮かんだのが、ミクロネーションズでした。 イラストは多数見かけたけど、テキストはまだほとんどないだろうと。 そう見込んで、好きに書いてみました。
キー君は、北キプロスです。ドラマCDに登場済みだそうですが、未見です。
今回は超捏造の寡黙少年になりました。
辛辣口調というご報告いただきましたが、まだ未確認です。 セボちゃんは、伊兄弟をゆるくゆる〜くした感じで。 ワイちゃんとシー君は、原作準拠のつもりです。大丈夫かな(汗
ちなみに、一応の年齢設定があります。 ワイちゃん=6歳 キー君=8歳 シー君=10歳 セボちゃん=13歳
実際の設定とは違うと思います。あくまで私が雰囲気で決めただけ。
ここまで読んでくださった方に、感謝を。 ちょっと精神的迷子なサイト主ですいません。
Write:2010/07/4
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