麗しのドイツブルー
☆はじめに 捏造ドイツ兄弟が登場しています。苦手な方にはお勧めできません。 マックス=バイエルン、ジーク=ザクセンです。
「お前の国の子供番組、すごい人気だぞ」
ベルリンの友人宅に立ち寄った菊にそう言ったのは、ギルベルトだった。 「アニメの事でしょうか。必ずしも子供向けとは限らないのですが」
菊が首をかしげると、ギルはちっちっと指を振る。 「いや、五色のユニフォームを着たヒーローが活躍するやつ」
「パワーレンジャーの事かな? あれ、アメリカの番組じゃなかったんだ」
ビールジョッキを手にしたマックスも、話に乗ってきた。隣に座ったジークも、コーヒーカップ片手に耳を傾けている。
「俺も子供向けと思ってたけどさ、日本で元番組見たら違うんだよ。なんだかドラマチックで、ぜんぜん別物なんだよこれが」 「おそれいります」
答えた菊が嬉しそうなのを、その場にいた全員が感じる。彼は(ドイツ人から見ると)あまり感情を表にしないが、それでも長い付き合いで見当がつくようになった。
「そういえば、どうして主役はいつも赤なの? ヒノマルの色だから?」
マックスが身を乗り出して問う。菊と会話するきっかけを逃すまいという意欲が、表情に満ちている。 菊は自分からはあまり話題を振らないので、話の接ぎ穂をつかんだら離さないつもりだ。
「そうだな。日本では、赤は女の子の色と聞いていたから意外だった」
すでに古い習慣なのか。とジークが呟く。彼は昔から日本文化に詳しいが、そんな雑学的な事までぬかりなくチェックしていたらしい。
「私も詳しくは知らないんですが、血潮や炎の色というのがヒーローっぽかったのでは」
なるほど、と誰ともなく呟いたときにゲルマン兄弟の中でもっとも低温の声が割って入る。 「……まあ、真っ青なヒーローだと貧血っぽいかもな」
酒肴を盛りつけた大皿を並べつつ、ルートが笑う。 「え〜。でも、俺はブルーがいいな。ドイツレンジャー、バイエルンブルー! 格好いいよね!」
その場にいた全員が、水色の衣装をまとったマックスを想像した。
何故か全身タイツで、マフラーは当然白。 ぷ。と誰かが吹き出し、それを合図に一同腹を抱えて笑い転げた。 「いや……いやいや待てよオイ。ドイツの青なら、俺んちのプルシアンブルーだろ!」
主人公カラーを主張するかと思ったギルが、そんな事を言いだした。(深みのある濃い青は、戦隊モノというより仮面ライダー系ですね)と、菊は冷静に批評する。
調子に乗ったギルは、弟の肩を抱き寄せた。
「お前はもちろんKornblume blauだよな!」
ギルに楽しそうな口調で言われ、ルートは苦笑する。 Kornblume
blau。つまりドイツの国花である矢車菊の青だ。最上級のサファイアの色をたとえる時に使われる高貴な蒼。
「よくお似合いだと思いますが、青ばっかりになりますよ」 菊が注意すると、何を思いついたのかギルがさらに嬉しそうな様子を見せた。
「いいだろ青。よし、ジークはザクセンブルー! で、明日全員自分カラーの服持ってここに集合! 皆で記念写真撮るぞ!」
ギルベルト、ノリノリである。 「いいですね。私も見たいです」
のんきに傍観者を決め込んでいた菊は、ギルと目があった瞬間に嫌な予感に襲われた。
「お前には、前にもらったサッカー日本チームのユニフォームがあるから安心しろ! 仲間外れにはしねーからよ。 もちろん菊は『サムライブルー』と名乗ってポーズを決めること、よし決定っ」
ぎゃー。と、菊は心の中で悲鳴を上げた。
「私も入るんですか? 全員ブルーって斬新すぎるし!もう、どこから突っ込んだらいいんですか!」 ふと気付くと、マックスはポーズの練習をしている。ルートは真顔で「手持ちの服だと、スキーウェアの色が一番近いかな」などと悩んでいる。
ドイツ兄弟、いつの間にか酔っていたらしいと今さら気付く菊。そっとジークに視線を送るが、ただひとり酔わないこの男は兄弟の暴走を止めた例がない。
そんなわけで翌日。
酔いがさめて理性が戻ったルートも、兄たちに引きずられるようにコスプレ(?)を実行することとなり。 それぞれが微妙に色合いの違う青い服を着た記念写真は、結構皆のお気に入りになったという。
終
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*ドイツ戦隊全員ブルー! というネタでした。
以前参加した「ドイツ捏造兄弟チャット」でちらっとこんな話が出たんです。 あの時から、「いずれ書こう」と狙ってました。
ちなみにそれぞれの色はこうなってます。
プルシアンブルー=紺青 バイエルンブルー=水色
ザクセンブルー=翠っぽい青 コーンフラワーブルー=紺碧 サムライブルー=藍色
青ってバリエーション多いですね。
Write:2010/12/24
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