国の人たちの会議は、いつものように自己主張のぶつけ合いに終始したまま時間切れとなった。
誰もが「人の話を聞かない奴ばかりだから、聞かせるためにより大声で発言するしかない」と考える。
そんなみごとな悪循環が会場を席巻し、不毛状態にキレてルートが怒鳴るのもいつものことで。
会議はいったん中断し、昼食後に仕切り直すことになった。
友人と共に会議場から出たフェリは、「午後からの会議をいかに厳粛に取り仕切るか」と話し合っているふたりの後ろからぼんやりついて歩いていた。
「発言を制限するべきだ」と怒るルートをなだめる菊の言葉に頷きながら、(言いたいことのある人には、どんどん言わせてあげればいいんじゃないかな)と思う。
(そうすれば、そのうち飽きるだろうし)
もっとも、こんなことを言ったらルートに「スッキリするために発言するんじゃない! そんな事を許したら、いつまでも会議が終わらんではないか」と怒られる。それはフェリでも予想がつく。
「話し合いって、難しいよね~」
友人たちの背中に向かって呟くフェリ。
(だけど、戦争に比べたらずっとマシだよね。痛くもないし、怖く…は、ちょっとあるけどさ)
フェリにとって「ちょっと怖い」に相当する米英コンビが、激しく言い争いつつ彼の横を通り過ぎた。ぴたりと肩を並べ、歩調まで揃っている。
彼らに言わせると「奴に抜かれたら腹が立つ」から肩肘張って競い合う……という事らしい。元々歩くのが早いふたりだが、そろった時の移動速度は異常だ。
そして。そんな様が傍目にはとても仲良しに見えてしまう事に、彼らは気づいていない。
お互い視線をがっちりぶつけ合い、なおかつちゃんと議論を成立させるというアクロバットを演じつつ。
世界有数の忙しい男たちは、凄い勢いでフェリから遠ざかって行った。
「あんなに口も頭も動かして、それで足まで動くってすごいな」と、フェリはのほほんと呟く。
何も考えず行動し、たまに考え事をすると眠くなる彼には信じられない忙しさだ。
「フェリシアーノちゃん、どうしたんだよひとりで」
声をかけられて、フェリは自分が立ち止まっていた事に気付いた。
(ほら。考え事なんてすると、足が止まっちゃうんだよ俺)
振り返ると、ギルベルトがいつものニヨニヨ顔で彼を見ている。その背後にはマイペースに歩むローデの姿があった。
「えっと、俺はルッツ達とランチに……あれ?」
いつもならフェリのペースに合わせてくれる菊も、今日は話に熱中して気が回らないらしい。そして、本気の菊は小柄な体に似あわない早足だ。
「おいて行かれたのかよ。じゃ、俺たちと飯食うか?」
気さくに誘うギルに、ようやくローデが追いついた。このふたりの場合は、ギルがいつも先行して途中で待っている。お互い、相手のペースに合わせる気は全くないらしい。
「それも楽しそうだけど……」
「エリザも待っているんですよ。貴方がいたら彼女も喜びます」
ローデにも誘われ、フェリはちょっと困ってしまう。
「ありがと。でもごめん、先約があるから」
会話する三人の目に、トーニョとロヴィの姿が映った。てれてれ進んでは、立ち止まってつつき合い(あるいはどつきあい)、また歩き出すが必ず斜めに向かう。
おおむね進行方向を維持しているのが奇跡だが、彼らのペースは米英とは逆の意味で異次元だ。
(会議室を出たのは兄ちゃんが先だったのにね~)と、フェリはちょっと笑ってしまう。
一方ルートと菊の後ろ姿は、いつの間にか小さくなりつつある。空腹ならともかく、どうしてあんなに急ぐのか。これもフェリには理解できない。
「あー、我が弟ながら歩くの早ぇ」
「いいんですか? 早く行かないと置いてきぼりになりますよ」
心配そうに問われたフェリは、自信に満ちた笑顔を向ける。
「それはねー、大丈夫なんだぁ」
ちょっと胸を張って、フェリは大声を張り上げた。ルートたちの背中に向かって。
「お~い、お前ら俺を忘れちゃダメだよ~」
その声で、フェリの不在に気付いたらしい。ふたりはまっすぐこちらに戻ってくる。
「ね?」
嬉しそうなフェリと、こちらに近づいてくる二人を見比べてギル達はため息をついた。
「目的地は向こうなのに、どうして呼びもどすんですか?!」
「んで、どうして来ちゃうんだよあいつらはっ!!」
その疑問をナチュラルに置き去りにしたまま、フェリはふたりに抱きついている。
「ひどいよお前たち~。俺を置いて行かないでよ」
「申し訳ありません」
「……お前の方が謝るのかよ……」
つっこむギルの声に元気がない。
一方ルートは、「遅れないようについて来いと、いつも言ってるだろう!」と怒っている。
「へも、ひてふれたんら~(=でも、来てくれたんだ)」
ぎうぎうとほっぺを引っ張られつつも、どこか嬉しそうに答えるフェリシアーノ。
「当り前だ! 目を離すとろくな事がないからな」
迷子になる余地があるだけ、自分は少しましなもかもしれない。と、ローデはひそかに安堵する。
「じゃ、俺食事に行くね~。誘ってくれてありがとう」
ぱたぱたと手を振るフェリを引きずって、ルートと菊はその場を立ち去った。
嵐のような勢いに呑まれ、しばらく立ちすくんでしまったギル達の隣りを、ロヴィに引っ張られたトーニョが通り過ぎる。
「私たちも行きましょうか。エリザが向こうで待っています」
先に落ち着きを取り戻したのは、ローデだった。彼女は一足先にレストランの席を確保しているはずだ。
「そう思うんなら、お前ももっと速く歩け」
言い捨ててザクザク歩むギルは、あっという間にトーニョ達を追い抜く。遅れまいとローデが続くが、あせっているなどと思われたくないプライドが、結局いつものペースを保ってしまう。
こんな調子では、彼らがレストランにつくころには米英が食事を終えて出てきそうだ。
そんなマイペースな人たちのため、ランチタイムは余裕を持たせてある。
こういう場合、一番遅い人にあわせておかないと遅刻者が頻発するのだから当然の処置だろう。
ルートのペースで食事を終えたフェリがシエスタに突入し、会議に遅れたのはまた別の話。
終
* 御本家よりネタを頂戴しました。とことこ歩く皆さまです。
竹林には出てこなかったけど、親分はのんびり歩くと思うんです。
ロヴィはそれを、後ろから追い立ててる役……と見せかけて。
実は親分にペースを合わせてもらってるといいなと思います。
そんな感じで、他の人たちも考えてみました。いかがなものでしょうか。
ブログにアップしたものに、加筆訂正してあります。
Write:2011/05/15