5月のミラノは、暑い。
天頂から刺すぴかぴかの日光を楽しむため、カフェは競うように屋外席を用意し、客はそこに陣取って美しい街並みを楽しむ。
カプチーノ一杯で居座っても、文句を言う店員はいない。だって、くつろぐその姿を見た者は、自分も居場所を求めてカフェに入りたくなるから。
ジェラートは美味しいし、女の子は薄着になるし。
「本当〜に、いい季節だよね」
スカラ座近くのカフェで、フェリシアーノは呟いた。目の前の通りを行き来する女性たちは、重いコートから解放された喜びに輝いている……ように、彼には見える。
いつもなら、目が合った女の子に話しかけるところなのだが。現に今も、ひとり座す彼に関心を向ける視線を感じている。
(ごめんね〜。君たちと遊びたいけど、今日の俺は先約があるんだ)
視線の先にウインクを送りたくなるのをぐっとこらえ、フェリは顔を反対側に向けた。すると視界にパンツスーツ姿の女性が映る。街歩きを楽しむ人たちとは違い、その人は律動的な歩調でまっすぐ彼の方へ向かってきた。
「エリザ姉さん! こっちだよ〜」
フェリが手を振ると、長い髪を背中になびかせた女性が微笑む。
エリザベートが、彼の待ち人だった。
カプチーノのお代わりを注文し、フェリは「仕事、終わったの?」とエリザに聞いた。
「私は、ね。でも、あの人はしばらく開放してもらえないと思うわ」
「しかたないよ〜。ウイーンフィルの、スカラ座客演だもん。ローデさん、絶対張り切ってるでしょ」
当たり。と答えて、エリザは楽しそうに笑った。
「いいの? 姉さんみたいな素敵な人を放置するなんて、信じられないな〜。
ローデさん、演奏会に夢中になってるんでしょ?」
普通は怒るんじゃないかと、フェリは思う。彼の知るエリザは、かなり気が強い性格だし。
「夢中よ。すごく楽しそう。今夜もきっと、演奏内容の批評を聞かされるわね。
私は彼ほど耳が肥えてないから、半分も理解できないんだけど」
でも、いいの。とエリザは笑う。その笑顔には、あきらめも妥協も感じられない。本当に許している事がフェリにはよく判る。
「あの人、嬉しいとか楽しいとか、はっきり口にしないから。だから何となく雰囲気で感じ取るしかないんだけど。
今回みたいに、夢中になってる自分を忘れるくらい集中してる所を見るのは、好きだわ」
頬を染めたエリザが幸せそうで、フェリは眩しげに眼を細める。かつてひとつ屋根の下で暮らし、おミソ扱いだった彼をかばってくれたお姉さんのそんな姿は、素直に嬉しい。
「それに、今回は特別イベントもあるの」
「え?」
フェリが問い返すと、彼女の微笑みが間近に迫る。
「あの人が、水着を買いにつきあってくれるの! 水着は今まで断固拒否だったのに! アナタのおかげよ、ありがとう!」
エリザは身を乗り出して、彼の頬に感謝のキスを落とした。
「ええっ? 俺、何かしたっけ?」
「ほら、この前ウィーンに来た時。日本での夏季休暇の話をしたでしょ?」
「ああ! あれかぁ」
それは、フェリがローデリヒ邸を訪れた時の事。
ローデが「秋に、日本に行くんです」と話題を振って来たので、フェリは今まで遊びに行った時のことをあれこれ話して聞かせた。
会話の中で、フェリは彼が日本の夏を知らない事に気付いた。そこで話題を去年の夏休みに絞り、なにがあったか面白おかしく語ったのだった。
「……と、言うわけなんだぁ。すっごく良かったよ日本のプール!
信じられる? 右を見ても左を見ても、日本人の女の子ばっかりなんだ!」
「日本なんだから、日本人だらけで当然だと思いますが。
まあ、良かったんじゃないですか」
意外と冷ややかな反応だったので、リキ入れて語っていたフェリは思わずローデの顔を見つめてしまう。
「あれ〜? この話、あんまり興味ない? ウチの兄ちゃんとかフラン兄ちゃん、すごく喜んでくれたんだけど」
たちまちしおれてしまったフェリを見て、ローデは(大人気なかった)と思いなおしたらしい。少し視線を宙にさまよわせて、小声で「……なくは、ないです」と答えてしまった。
「そっかぁ!よかった、ローデさんも水着の女の子、好きなんだね!」
大声をたしなめるより早く、書斎の扉が開いてエリザが入って来たのはどんな偶然か。息をつめたローデを見て、エリザは極上の笑顔でこう呟いた。
「その答え、私もぜひ聞きたいわ」
エリザが『微笑みながら怒る』などという腹芸ができない女性だと思っているフェリは、平然とふたりの会話を聞いている。
その認識は間違っていない。だが、独身のフェリには判らない、微妙な機微というモノが夫婦にはあるのだ。
ここで「はい」と答えても「いいえ」と答えても、後でろくなことにならない。そう察知したローデは瞬時に頭をフル回転させた。
「水着は……そうですね。誰が着るか。それが一番大事でしょう」
こほん、と咳払いして堂々と発言したローデ。(巧く逃げた)と、ふたりは同時に思った。
しかし、賢いエリザは何も言わなかったし、フェリは(使えそうな言い訳だ)と心にメモするに留めたのだった。
「あの後、ウィーン以外の場所でなら買い物に付き合ってくれるって約束したの」
「へー」
どんなやり取りがあったのかは、追求しない方がよさそうだとフェリは思う。
「水着なら、俺の方が上手に見立てられると思うんだけどな」
フェリが言うと、エリザは両拳を口に当てて楽しそうな笑い声をあげた。
「あの人を更衣室の前まで引っ張って行って、『この水着はどう? 似合う?』ってやりたかったの!」
さぞかし照れて嫌がるだろう。と、想像するだけで気の毒になってしまう。でも、堅物を困らせてみたいというエリザの気持ちも判ってしまうフェリだった。
ふと、昔彼らと買い物に行った時の事を思い出す。慣れない子供服の店で戸惑っていたローデと、彼の腕をとって商品を選んでいたエリザ、そして……。
笑うのが誰よりへたくそだった、黒衣の少年。
懐かしい、懐かしい。
黙り込んでしまったフェリの顔を覗き込んだエリザに、「どうしたの?」と声をかけられて我に返る。
エリザの笑顔が、幸せそうで。さっきまで彼の喜びでもあった表情が、胸に刺さった。落ち込んだ事を悟られないよう、フェリは大げさなくらい微笑んで見せる。
「なんでもないよ。ねえ、姉さんの水着姿、俺にも見せてね。
ローデさんの次でいいからさぁ」
こら。と、エリザの指が彼の鼻先をはじく。指先が堅くなっている事に気付いたフェリは、そっと彼女の掌を握った。
「ピアノの練習、またはじめたの?」
「アナタ、鋭いわね本当に。あの人には内緒よ! いつの間にか上達した、って驚かせるんだから」
「わかった」
彼に判る事が、ローデにばれてないはずはないと思うフェリ。でもきっと何も言わず、エリザの上達をそっと待っているんだろう。
今はそれぞれの国で暮らし、別居結婚状態が長いのに。変らない仲の良さが、眩しく感じられる。
「姉さん、幸せ?」
問いかけるフェリの笑顔に、微妙な陰りを見つけてしまったエリザ。弟のように可愛がっている彼の頬を、優しく撫でて答える。
「もちろんよ」
さっきまで、春の陽だまりのようだったのに。
幸せそうなのは、彼の方だと思っていたのに。
「そっか。じゃ、俺も幸せだ」
彼女が欲したのとは、ニュアンスの違う返事だった。だが、それを追求するには、5月のオープンカフェは明るすぎる。
「アナタがくれた幸せよ」そう言うと、フェリはふにゃりと笑う。
嬉しそうなのに、泣きだしそうにも見えるのは、何故?
どう問いかけようかと悩むエリザに、フェリは「ほら、ローデさんが出てきたよ」と先に声をかける。
振り返ると、スカラ座正面玄関に貴族然とした青年が立っている。優雅に左右を見回すと、確信をもった表情で歩き始めた。
……待っているエリザに、背を向けて。フェリが「あいかわらずだね」とくすくす笑う。
「もう! だから動かないで待ってなさいって言ったのに!」
ぱっと立ちあがったエリザは、夫の背中にむかって駆けだす。このためのパンツスーツ? とフェリが感心するほど、思い切った動きだった。
追いかけて、声をかけて。振り返ったローデが何か言っている。それにこたえるエリザの笑顔の華やかさは、一年で一番美しいと言われる5月の日差しにも負けていない。
振り返った二人が、彼に手を振る。笑顔で返しながら、(お願い。そのまま行っちゃって)と心で願ってしまうフェリ。
うらやましくて、切なくて。何か言われたら泣いてしまいそうだった。
ねえ、君。聞いてよ。
ボク今日、エリザ姉さんに喜んでもらえたんだ。幸せをありがとう、って。
ねえ。
あの役立たずだったボクが、そんな風に言ってもらえたんだ。
今なら。
君にもあんな風に微笑んでもらう事が、できるかなぁ。
さすがに、一緒にローマ帝国になるのは難しいと思うけど。
あの頃、ボクは君があんなに明るく笑うのを、一度も見てないんだ。
ねえ、君。
君の幸せな笑顔が……見たかったよ。
固く組んだ両手の上に、そっと顔を伏せる。
彼の願いは言葉にならず、祈りのかけらは空気に溶けてしまったかもしれない。
終
ハンガリーさんと仲良しなイタリア。というリクエストでした。
リア充バリバリなお姉ちゃんと、夢見がちな弟。そんな感じになりました。
個人的にエリザ姐さんは、いつどんな時代でも自分から輝いてそうです。
ご本家でも「この物語中で一番オトコマエ」と書かれていた雰囲気を目指してました。
ちなみにフェリは「こんな弟がいたらいいな」というドリーム満載です。
ロヴィだと「生意気、口答えする、懐いてこない」という弟だろうな。
そっちも可愛いと思う私は、弟に夢を見過ぎでしょうか。
こんな私は二人姉妹の長女。男兄弟に縁がありません。
問題は、「相談に乗る」ところまでたどり着けなかった事。
すいません。長くなったので一旦納めました。
仲良しな雰囲気だけでも、楽しんでいただけたら幸いです。
天頂から刺すぴかぴかの日光を楽しむため、カフェは競うように屋外席を用意し、客はそこに陣取って美しい街並みを楽しむ。
カプチーノ一杯で居座っても、文句を言う店員はいない。だって、くつろぐその姿を見た者は、自分も居場所を求めてカフェに入りたくなるから。
ジェラートは美味しいし、女の子は薄着になるし。
「本当〜に、いい季節だよね」
スカラ座近くのカフェで、フェリシアーノは呟いた。目の前の通りを行き来する女性たちは、重いコートから解放された喜びに輝いている……ように、彼には見える。
いつもなら、目が合った女の子に話しかけるところなのだが。現に今も、ひとり座す彼に関心を向ける視線を感じている。
(ごめんね〜。君たちと遊びたいけど、今日の俺は先約があるんだ)
視線の先にウインクを送りたくなるのをぐっとこらえ、フェリは顔を反対側に向けた。すると視界にパンツスーツ姿の女性が映る。街歩きを楽しむ人たちとは違い、その人は律動的な歩調でまっすぐ彼の方へ向かってきた。
「エリザ姉さん! こっちだよ〜」
フェリが手を振ると、長い髪を背中になびかせた女性が微笑む。
エリザベートが、彼の待ち人だった。
カプチーノのお代わりを注文し、フェリは「仕事、終わったの?」とエリザに聞いた。
「私は、ね。でも、あの人はしばらく開放してもらえないと思うわ」
「しかたないよ〜。ウイーンフィルの、スカラ座客演だもん。ローデさん、絶対張り切ってるでしょ」
当たり。と答えて、エリザは楽しそうに笑った。
「いいの? 姉さんみたいな素敵な人を放置するなんて、信じられないな〜。
ローデさん、演奏会に夢中になってるんでしょ?」
普通は怒るんじゃないかと、フェリは思う。彼の知るエリザは、かなり気が強い性格だし。
「夢中よ。すごく楽しそう。今夜もきっと、演奏内容の批評を聞かされるわね。
私は彼ほど耳が肥えてないから、半分も理解できないんだけど」
でも、いいの。とエリザは笑う。その笑顔には、あきらめも妥協も感じられない。本当に許している事がフェリにはよく判る。
「あの人、嬉しいとか楽しいとか、はっきり口にしないから。だから何となく雰囲気で感じ取るしかないんだけど。
今回みたいに、夢中になってる自分を忘れるくらい集中してる所を見るのは、好きだわ」
頬を染めたエリザが幸せそうで、フェリは眩しげに眼を細める。かつてひとつ屋根の下で暮らし、おミソ扱いだった彼をかばってくれたお姉さんのそんな姿は、素直に嬉しい。
「それに、今回は特別イベントもあるの」
「え?」
フェリが問い返すと、彼女の微笑みが間近に迫る。
「あの人が、水着を買いにつきあってくれるの! 水着は今まで断固拒否だったのに! アナタのおかげよ、ありがとう!」
エリザは身を乗り出して、彼の頬に感謝のキスを落とした。
「ええっ? 俺、何かしたっけ?」
「ほら、この前ウィーンに来た時。日本での夏季休暇の話をしたでしょ?」
「ああ! あれかぁ」
それは、フェリがローデリヒ邸を訪れた時の事。
ローデが「秋に、日本に行くんです」と話題を振って来たので、フェリは今まで遊びに行った時のことをあれこれ話して聞かせた。
会話の中で、フェリは彼が日本の夏を知らない事に気付いた。そこで話題を去年の夏休みに絞り、なにがあったか面白おかしく語ったのだった。
「……と、言うわけなんだぁ。すっごく良かったよ日本のプール!
信じられる? 右を見ても左を見ても、日本人の女の子ばっかりなんだ!」
「日本なんだから、日本人だらけで当然だと思いますが。
まあ、良かったんじゃないですか」
意外と冷ややかな反応だったので、リキ入れて語っていたフェリは思わずローデの顔を見つめてしまう。
「あれ〜? この話、あんまり興味ない? ウチの兄ちゃんとかフラン兄ちゃん、すごく喜んでくれたんだけど」
たちまちしおれてしまったフェリを見て、ローデは(大人気なかった)と思いなおしたらしい。少し視線を宙にさまよわせて、小声で「……なくは、ないです」と答えてしまった。
「そっかぁ!よかった、ローデさんも水着の女の子、好きなんだね!」
大声をたしなめるより早く、書斎の扉が開いてエリザが入って来たのはどんな偶然か。息をつめたローデを見て、エリザは極上の笑顔でこう呟いた。
「その答え、私もぜひ聞きたいわ」
エリザが『微笑みながら怒る』などという腹芸ができない女性だと思っているフェリは、平然とふたりの会話を聞いている。
その認識は間違っていない。だが、独身のフェリには判らない、微妙な機微というモノが夫婦にはあるのだ。
ここで「はい」と答えても「いいえ」と答えても、後でろくなことにならない。そう察知したローデは瞬時に頭をフル回転させた。
「水着は……そうですね。誰が着るか。それが一番大事でしょう」
こほん、と咳払いして堂々と発言したローデ。(巧く逃げた)と、ふたりは同時に思った。
しかし、賢いエリザは何も言わなかったし、フェリは(使えそうな言い訳だ)と心にメモするに留めたのだった。
「あの後、ウィーン以外の場所でなら買い物に付き合ってくれるって約束したの」
「へー」
どんなやり取りがあったのかは、追求しない方がよさそうだとフェリは思う。
「水着なら、俺の方が上手に見立てられると思うんだけどな」
フェリが言うと、エリザは両拳を口に当てて楽しそうな笑い声をあげた。
「あの人を更衣室の前まで引っ張って行って、『この水着はどう? 似合う?』ってやりたかったの!」
さぞかし照れて嫌がるだろう。と、想像するだけで気の毒になってしまう。でも、堅物を困らせてみたいというエリザの気持ちも判ってしまうフェリだった。
ふと、昔彼らと買い物に行った時の事を思い出す。慣れない子供服の店で戸惑っていたローデと、彼の腕をとって商品を選んでいたエリザ、そして……。
笑うのが誰よりへたくそだった、黒衣の少年。
懐かしい、懐かしい。
黙り込んでしまったフェリの顔を覗き込んだエリザに、「どうしたの?」と声をかけられて我に返る。
エリザの笑顔が、幸せそうで。さっきまで彼の喜びでもあった表情が、胸に刺さった。落ち込んだ事を悟られないよう、フェリは大げさなくらい微笑んで見せる。
「なんでもないよ。ねえ、姉さんの水着姿、俺にも見せてね。
ローデさんの次でいいからさぁ」
こら。と、エリザの指が彼の鼻先をはじく。指先が堅くなっている事に気付いたフェリは、そっと彼女の掌を握った。
「ピアノの練習、またはじめたの?」
「アナタ、鋭いわね本当に。あの人には内緒よ! いつの間にか上達した、って驚かせるんだから」
「わかった」
彼に判る事が、ローデにばれてないはずはないと思うフェリ。でもきっと何も言わず、エリザの上達をそっと待っているんだろう。
今はそれぞれの国で暮らし、別居結婚状態が長いのに。変らない仲の良さが、眩しく感じられる。
「姉さん、幸せ?」
問いかけるフェリの笑顔に、微妙な陰りを見つけてしまったエリザ。弟のように可愛がっている彼の頬を、優しく撫でて答える。
「もちろんよ」
さっきまで、春の陽だまりのようだったのに。
幸せそうなのは、彼の方だと思っていたのに。
「そっか。じゃ、俺も幸せだ」
彼女が欲したのとは、ニュアンスの違う返事だった。だが、それを追求するには、5月のオープンカフェは明るすぎる。
「アナタがくれた幸せよ」そう言うと、フェリはふにゃりと笑う。
嬉しそうなのに、泣きだしそうにも見えるのは、何故?
どう問いかけようかと悩むエリザに、フェリは「ほら、ローデさんが出てきたよ」と先に声をかける。
振り返ると、スカラ座正面玄関に貴族然とした青年が立っている。優雅に左右を見回すと、確信をもった表情で歩き始めた。
……待っているエリザに、背を向けて。フェリが「あいかわらずだね」とくすくす笑う。
「もう! だから動かないで待ってなさいって言ったのに!」
ぱっと立ちあがったエリザは、夫の背中にむかって駆けだす。このためのパンツスーツ? とフェリが感心するほど、思い切った動きだった。
追いかけて、声をかけて。振り返ったローデが何か言っている。それにこたえるエリザの笑顔の華やかさは、一年で一番美しいと言われる5月の日差しにも負けていない。
振り返った二人が、彼に手を振る。笑顔で返しながら、(お願い。そのまま行っちゃって)と心で願ってしまうフェリ。
うらやましくて、切なくて。何か言われたら泣いてしまいそうだった。
ねえ、君。聞いてよ。
ボク今日、エリザ姉さんに喜んでもらえたんだ。幸せをありがとう、って。
ねえ。
あの役立たずだったボクが、そんな風に言ってもらえたんだ。
今なら。
君にもあんな風に微笑んでもらう事が、できるかなぁ。
さすがに、一緒にローマ帝国になるのは難しいと思うけど。
あの頃、ボクは君があんなに明るく笑うのを、一度も見てないんだ。
ねえ、君。
君の幸せな笑顔が……見たかったよ。
固く組んだ両手の上に、そっと顔を伏せる。
彼の願いは言葉にならず、祈りのかけらは空気に溶けてしまったかもしれない。
終
ハンガリーさんと仲良しなイタリア。というリクエストでした。
リア充バリバリなお姉ちゃんと、夢見がちな弟。そんな感じになりました。
個人的にエリザ姐さんは、いつどんな時代でも自分から輝いてそうです。
ご本家でも「この物語中で一番オトコマエ」と書かれていた雰囲気を目指してました。
ちなみにフェリは「こんな弟がいたらいいな」というドリーム満載です。
ロヴィだと「生意気、口答えする、懐いてこない」という弟だろうな。
そっちも可愛いと思う私は、弟に夢を見過ぎでしょうか。
こんな私は二人姉妹の長女。男兄弟に縁がありません。
問題は、「相談に乗る」ところまでたどり着けなかった事。
すいません。長くなったので一旦納めました。
仲良しな雰囲気だけでも、楽しんでいただけたら幸いです。