願い事は、一つだけ
☆かぼちゃのじかん。の、深夜の話。
ルートが深夜を覚ますと、寝室には彼しかいなかった。 「フェリ?」 「今日は客室がふさがっているから、俺はルッツの部屋で寝るからね」と、夕食時声高らかに宣言した友人の姿が……見当たらない。 トイレかとも思ったが、ルートの身体の隣から人の気配がなくなって時間がたっている。 こんな区別がつくほど「アレ」と一緒に寝ているのかと思うと頭が痛いルートだったが、結局気になって探すことにした。
フェリは台所にたたずんでいた。明かりもつけず、月明かりに照らされた庭をぼんやり眺めている。 「おい、どうした」 声をかけると、フェリは振り返る。目の焦点が合っていないので、「夢遊病か?」と心配になってしまう。 「…………あ。ルッツだ」 「立ったまま寝るなお前はっ」 返事があったことに、安堵する。泣きながら歩き回られたら、困るところだった。 肩に触れると、冷たい。すっかり冷え切っている。下着にワイシャツをはおった姿では、いくらなんでも寒すぎるだろう。 昔北アフリカ戦線で、「寒いよ〜砂漠の夜は寒すぎるよ〜」とぼやくフェリを温めてやったことを思い出し、(成長のない奴め)と呆れてしまう。 「とにかく、もどるぞ」 肩を引くと、素直に歩き出すフェリ。歩きながら「ねえ、ルッツ」と呟いた。 「あのね。俺にして欲しい事、何かない?」 「さっさと寝てくれ。一人だと尚良し」 即答するルート。いつものように「ひどい〜」と文句を言うだろうと思ったのに、フェリは素直に「うん」とうなづいた。 ふらふらと客室に向かうのを慌てて止める。こんな状態で菊の寝室に行かせたらまずい。 騒ぎになってもならなくても、後々菊に頭が上がらなくなる気がする。 「まて。今のは取り消す。ちょっと考えさせろ」 そう言われたフェリは、無防備に彼の前に立っている。仕方なく居間に入り、すでに準備している暖炉に火を入れることにした。
粗朶を集めて火をつける。薪に燃え移るまで時間がかかるが、赤い光はそれだけで心を鎮めてくれる。 「ちょっと、思い出しちゃって」 珍しく沈んだ表情のフェリを見て、(また、夢の話か?)とルートは思う。 「昔仲の良かった友達の事。あの子が今、ここにいてくれたら」 ぱちぱちと細枝がはじけ、乾いた香りが漂う。 「俺、なにかしてあげられるかなって。考えたら眠れなくなったんだ」 なにもするな。と、ルートは心の中で断言した。 フェリに悪気がないのは判っているが。それゆえ引っ張り回された過去のアレコレを思いだすと、結論はそれしかない。 その友人とやらが気の毒にさえなるのは、己の経験則から無理からんと思う。 「一緒に遊べばいいんじゃないのか。かぼちゃ作りはアレだが、呑みに行ってもいいし、皆で出かけてもいいだろう」 「そっか。そうだよね」 答えたフェリは、ほろほろと涙をこぼしている。 「ごめん。想像したらなんだか泣けてきて。すごくいい話なのに、どうして涙が出るんだろう」 「そんなに、会いたいのか」 ルートが問うと、フェリは顔をこすって首を横に振った。 「会いたいけど、会うのが怖い気もするんだ。うまく説明できないけど」 身を寄せるフェリの髪の毛をなでながら、「説明は、いい」と告げるルート。 「でも言いたい事があるなら、何でも言え。俺は、お前の話が聞きたい」 そう口に出してみると、先ほどの「して欲しい事」がそれだったと納得できた。さらに次の言葉が、するりと彼の口から飛び出した。 「その友人とやらにも、今までの事や考えていた事を話せばいいと思うぞ」 ありがと。と、フェリが囁いた。 「やっぱルッツはすごいよ。どうしてそんなに色々判るんだろ」 「お前が鈍いんだ」 えー。ルッツに言われたくないよ。とフェリが笑う。 寝室へ戻るタイミングを失い、ふたりはぼんやりと暖炉の火を眺めながら会話を続けた。
気がついたら朝だった。あきれ顔のジークに起こされたルートは、慎重にフェリを寝室へ戻して寝かしつけのだが。 寝ぼけたフェリにしがみつかれてベッドに引っ張りこまれ、二度寝をしてしまうという醜態をさらし、後日大いに兄弟&菊に冷やかされたという。
終
*夢見の原因は、もちろんギルの発言です。 神ロがもし現代に現れたら……フェリは困るでしょうね。 「俺と一緒にローマ帝国になろう」も。 「ずっと一緒にいよう(嫁的な意味で)」も。 どちらも実現不可能っぽいですよね。というか、青年になったフェリを、神ロは受け入れられるのでしょうか。 いかん。ちょっと楽しそうなテーマだ(鬼
Write:2009/11/02 (Mon)
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