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ひとふきで、ぷう


 ☆昔馴染みに心の杯、の後日談になります。時間は20年ほど後。


「では、ドイツの皆様はかならずしも兄弟というわけではないのですね」
 菊が問うと、彼の友人は少し考える表情になった。

 国際環境会議の後、ルートの家に招待された参加者たちは和やかに雑談していた。時は間もなく世紀が変わろうという頃。和戦ではなく環境のために各国が集まれる時代がようやく来た。
 今回の会場ががドイツだったので、いわゆる『ドイツの人々』が会の進行や会場設営に接待にと大活躍していた。菊は改めて「こんなにたくさん一族の方がいらしたんですね」と知ったわけだ。
「まあ、兄だ弟だと言い始めると揉めるからな」
 自己主張が激しくて困る。と、一族の末っ子確定の男が苦笑する。
「いつから国になった、なんてのも曖昧だしよ。言った者勝ちっつーか、要は実力?」
 部屋の一隅、ルートよりいい場所を確保してどっかりと腰を据えたギルが笑った。ドイツ建国の礎となった国なのだから、彼は誰に対しても長男面を押し通す。
「君は好きなだけ威張りんぼしてればいいよ。でもルートは皆の弟だと思うんだ」
 ギルとは反対隅に座ったひげ男が呟いた。
「何か言ったか、マックス」
「おや、久しぶりに会ったら耳が遠くなったようだね」
 部屋の両端から厭味を飛ばしあうふたり。親戚でありながら、「英仏よりは仲が良いぜ」という、比較対象がそもそも話にならない不仲な両国を持ち出すあたりで察してほしいという間柄だ。
 両者の関係をよく知る欧州勢は平気で聞き流しているが、それを知らない菊は「自分の発言のせい?!」と空気を過剰読みしてあせっている。
 幸い、救いの手は妙な方向から現れた。ルートが兄貴たちをたしなめる前に、フェリが一声叫んでいた。
「マックスもルッツのお兄ちゃんなの? じゃ、三兄弟ってことでいいんじゃない?」
「「良くねぇ(ない)っ!」」 
 叫び声が見事にハモった。両者同時に立ち上がり、相手を指差して舌戦開始。
「俺の弟はルッツただひとりだ! こんなムサいの、いらねえっ!」
「俺だって厭だよ。ギルが兄? 絶対無理。それくらいならローデをお兄様と呼ぶほうがずっとましだっ」
 いつの間にか引き合いに出されたローデは、平然と自分でいれた紅茶を飲んでいる。話に介入する気も起らないらしい。
「いまさらって気もするけど。お前たち、兄弟の兄弟は兄弟だって、気がついてなかったんだ」
 フランシスがあきれたように笑うが、加熱中の二人の耳には届いていない。すでに「おまえのかあちゃんでべそ」的な低レベルの争いになったところで、菊がポツンと呟いた。
「どこかで見たことがあると思ったら。あのアニメですよ」
 一見、これまでの論争とかけ離れた発言に皆が戸惑う。
「家を吹き飛ばされたお兄ちゃん達が、しっかり者の弟に助けられて仲良く暮らすっていう有名な……」
 ………………。
 若干のタイムラグを置いて、菊の言いたいことが分かった一同。
(あ! もしかして童話の)
(俺もわかったで。ほんま、ルートはメッチャあの末っ子の性格やねえ)
 ぴったりすぎてシャレにならない、と誰もが思った。フェリの天然ボケと、菊の天然ツッコミのコンボのせいで、腹筋が崩壊しそうだ。
 それでも懸命にこらえていた一同だったが。
「俺は、子豚か〜〜〜〜」
 ほかならぬ本人の絶叫に耐えられず、ルートの家は爆笑に包まれた。二人の「ルートの兄の座決定戦」は、こうしてなし崩しに終了した。

 終


* ルートの兄同士も兄弟だよね? というネタがうまく入らなかったので書いてみました。
 よく考えると本当にシャレになりません。とくにギル。
 たまたま東西の大国はこの場にいなかった、という設定でよろしくお願いします。
 でも「兄たちと協力して、オオカミを追い払う(原本だと退治する)」あたりもぴったりだと思うんです。



Write:2009/08/14 (Fri)

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