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ゆかいなドイツ一家


 ☆心の弦を張れ、と同時間軸での話です。

 世界環境会議は、今回ドイツが主催国となった。
 どの国よりも熱心に環境問題に取り組んできたという自負がある彼らは、張り切っている。
 彼ら。
 ルートに招集されたのは、小国家時代の国名を背負った「ドイツの兄弟たち」だった。
 会えばたまには喧嘩にもなるが、「兄弟だから喧嘩くらいするだろう」とルートが軽く受け流すくらいだから、総じて仲はいい方なのだろう。
 彼らのほどんとは現役を引退し、それぞれ自分の郷里で暮らしている。
 隠居に飽きると、それぞれの好みで学校や役場などに復帰して、地味に勤めていたりする。今のところ、「生きるのに飽きた」という訴えがないので、ルートは彼らに好きにさせている……のだが。
  
 目の前で繰り広げられている激しい討論を聞き流しながら、ギルベルトは深くため息をついた。
 これは、国際会議なのだ。
 公演するのも議論するのも、ゲストの仕事。彼らは会場設営や、運営の段取りをすればいいはずだった。
 そのはずなのに。
「温暖化がアルプス氷河にもたらす影響について語らせてくれなきゃ、俺は会場で座りこみを決行する!」
 マックスがこんな事を言い出したのが、事の発端だった。その後兄弟が一斉に「自分にも言わせろ」と文句を言い始めたのだから。
「ちょお待てや。それなら、酸性雨による森林被害の実情が先やが」
 丸縁眼鏡の青年が、ちょっとなまった口調で訴えると。
「その酸性雨の原因をつきとめ、工場地帯から排出されるCO2削減に尽力した我々の意見がなければ、片手落ちだろう!」
 都会的な雰囲気の青年が手を挙げて発言する。
「あの……原子力発電を廃止して、太陽光や風力に切り替えた経緯と結果も、ぜひお伝えしなければと……思うのですが」
 声は小さめだが、言ってる事はしっかりしている金髪三つ編みの少女。
「そやちゃね。ウチらの出した成果を、皆様に聞いてもらうっちゃ」
 プラチナブロンドをショートカットにした美女が、ほほ笑みながらやたら分厚い資料を出してきた。
「資料は準備できとるちゃ。言わせまっし」
 彼らの勝手な発言に耳を傾けながら、ずっとパソコンをたたいていた青年が、ギルを手招く。
 長めの直毛を一つまとめにした男の背後からパソコンを一瞥したギルは、まだ騒いでいる兄弟たちを一喝。
「こらお前ら! ジークだけに仕事させてるんじゃないっ!」
 彼は律義に、兄弟たちに発言させたらどれくらい時間が必要か計算していたらしい。
「見ろこれを! お前らの話聞いていたら、予定の三倍時間があっても足りやしねえってーの」
「会場一つ、ふやすわけにはいかないのか」
「んな予算がどこからわいて出るのか、答えてもらおうかマックス!」
 あてはなかったらしく、マックスはとりあえず黙った。
「そういえば、ルートはどうしてここに居ないんですか?」
 僧服めいた黒いスーツに身を包んだ、痩せぎすの青年が控えめに問う。
 その小さな発言に、全兄弟が反応する。実は皆、気にしていたのが良く判る食いつきぶりだ。
 一斉に視線を向けられたギルは、頬を爪で掻きながら眼をそらした。
「あいつは、ちょっと面倒なゲストにつきっきりだ。フェリシアーノが手伝ってくれてるんで、すべてまかせてある」
 え〜〜。と、兄弟たちからブーイングが漏れる。
「ルートとフェリに会えるのを楽しみに来たのに、何だよその仕打ちは!」
「フェリシアーノはうちの子じゃねえ! お前らいい歳なんだから、ゴネてないで仕事しろよ全く」
 ああ、ちくしょう。やっぱり俺が菊を担当しておけばよかった。
 ルートに「頼む兄さん」と言われてうっかり総括役を引き受けたばっかりに、このざまだ。
 嘆くギルの心の声は、むろん誰にも届く事はなく。
 ドイツファミリーの論争は、この後一時間以上続いたという。

 終



*いろんな人が出てきてますが、詳しくは触れません。私自身が収拾つかなくなりそうなので。
 いろんな方言も出てますが、ドイツ語にも方言はあると言う事で。
 それを言うなら、本当はマックスもバイエルン方言を使っているのですが……。
 彼は出番が多い予定だったので、あきらめました。
 名前の出てきた「ジーク」がザクセンさんだという事だけ、白状しておきます。
 彼は「ジークフリード」という古風な名前です。
 見た目はゲルマンさんに一番似ています。寡黙な所もそっくりです。
 お酒はビールでもワインでもなく、蒸留酒ひとすじ。酔わない体質なんです。



Write:2009/10/05 (Mon)

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